AR/VR

情報化社会が進展する中、政府は、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムを活用することで、経済的豊かさと社会的課題の解決を両立させる“Society 5.0”を提唱しています。この理念の下、フィジカル空間で収集した様々な情報をサイバー空間における大規模データ処理技術を用いて分析や知識化を行い、産業の活性化や社会問題の解決を目指すサイバーフィジカルシステム(CPS; Cyber Physical System)の重要性が高まっています。そのようなCPSを基幹とした社会運営がされる世界を目指す上で、拡張現実(AR; Augmented Reality)技術(特にARグラス)に大きな注目が集まっています。

ARグラスは、シースルーディスプレイに、プロジェクタから投影された画像をどのように眼に届けるかで、プリズム方式・バードバス方式・ウェイブガイド方式の三種類に大別されます。これまでのところ、プリズム方式とバードバス方式が市場規模では先行していますが、視野角(FOV; Field of View)・シースルー性・サイズの面で問題も多く、拡張現実というコンセプトから多少外れていることは否めません。その一方で、ウェイブガイド方式は、半導体レベルの微細加工と複雑な光学設計が必要になるものの、これらの課題を解決する次世代ARグラスとして、有望と考えられています。

本研究では、互いに分野の異なるグループが連合し、素材開発から光学設計、製造技術の確立、ソフトウェアアプリケーションを含めた実装、臨床現場での検証に至るまで、一気通貫の体制を展開しています。具体的には、微細加工製造技術として国内有数の知見・設備を有するとともに、ヘッドマウントディスプレイによるVR手術を国内で初めて行った「東京科学大学 (旧 東京工業大学、旧 東京医科歯科大学)」、日本最大のARグラス系スタートアップ「Cellid(セリッド)」、メガネレンズ素材で世界シェアトップの「三井化学」の2社1大学で、医療用に特化したウェイブガイド方式のARグラスの実現を目指しています。

▲ 分野の異なる2社1大学による、メタマテリアル技術を用いた医療用ARグラスの開発

■医療用に特化したウェイブガイド方式のARグラス
一般的なウェイブガイド方式のARレンズで用いられている回折格子を有する透明平板状光学素子の代わりに、回折格子領域をメタマテリアル構造に置き換えた素子を提案。十分なFOV・アイボックス・輝度/輝度均一性・色均一性を維持しつつ、単層でフルカラー(RGB 3色)に対応するARレンズの開発を行っています。

民生用のARグラスの使用用途は、日常生活内におけるARモデルの観察を中心とした仕様ですが、医療現場でのARモデルは医療処置を補助するもので、従来の医療処置の遂行を妨げることがあってはいけません。そのため、一般的なウェイブガイド方式のARグラスにみられる回折格子をレンズの中心に配置するデザインは適当ではなく、術者の視覚的認識を損なわせることのないよう、注視範囲外に視野角の広いメタサーフェスを配置し、眼球を向けたときのみ表示情報が目に入るようなデザインを提案しています。

▲ 開発予定の医療用ARグラスの構成

▲ Zemax-Lumerical統合環境によるARレンズの設計
▲ UVナノインプリントによるARレンズのスタンプモールド