トポロジー(topology)とは数学の一分野である位相幾何学のことです。位相幾何学は言うなればゴムのように柔らかい図形を扱う学問体系で、これを以ってすると、左下のようにカップとドーナッツは同一の図形として認識される一方で、球とトーラスは伸び縮みさせても一方から一方へ変形できないことから異なる図形として認識されます。このとき、球とトーラスの性質を決めているのは “穴の数” であり、それが異なる図形は違うものと見なされます。
この概念を光分野に適用したのが、トポロジカルフォトニクスです。トポロジカルフォトニクスは「特殊な自由度をもたせたフォトニック結晶系」であり、構造をうまくデザインすることで、トポロジーに起因した光の情報を扱うことが可能となります。例えば、右下には二つのフォトニック結晶が示されていますが、これらは互いに極めて近い光学特性をもちます。互いの光学特性が近いので、これら二つを隣接させたとしても、通常はその光学特性は変化しないはずです。しかし、両者のトポロジーが異なる場合はその限りではなく、先ほど述べたように、位相幾何学において “球” から “トーラス” には連続変形で移ることができないのと同様に、トポロジーが異なるフォトニック結晶同士も、隣接界面において何らかの特殊な物理状態を介さなければ、連続的に移ることができません。このようにして出来上がった特殊な界面を伝搬する光は、光の内部自由度であるスピンと軌道角運動量に対して特徴的な性質をもちます。
■トポロジカル光回路
光通信において広く利用されている光集積回路は、高い処理速度とエネルギー効率を実現するために様々な機能を一つのチップに集積したものですが、光子自体の内部自由度まで扱うことはできません。そのような中、従来型の光回路の一部をトポロジカルフォトニクス系に置き換えることで、光のスピンや軌道角運動量もチップ内で積極的に活用することができるようになります。これにより、大容量化・高速化・ダウンサイズ化など、フォトニクス分野において限界を迎えつつある様々な課題について大きな進展をもたらすことが可能となります。この概念をトポロジカル光回路(TPICs : Topological Photonic Integrated Circuits)と呼んでいます。
本テーマでは、バンドトポロジーに立脚した量子技術と集積フォトニクス技術を融合させることで、光回路内で光子自体の内部自由度を扱うためのプラットフォームを開発します。併せて、その技術を活用した革新的な光デバイスを実現し、将来的な光電融合技術への礎とします。特に、トポロジカルフォトニクスによって発現する新しい位相干渉作用を用いた先進デバイス開発およびこれら現象の物性探求を二本柱としています。