UV-NILプロセス技術

ナノインプリントリソグラフィ(NIL)は、ナノスケールのスタンプを用いた押印技術であり、従来の露光法と違って露光波長に解像度が依存しないこと、大面積転写性や高スループット性などを有していることから、半導体における次世代リソグラフィ技術の一つとして期待されています。特に、ソフトUV-NILは、半導体製造環境との互換性を担保しつつ、半永久的な機能層を大面積かつ高解像度でパターニングできることから、近年、拡張現実(ARグラス)や生物医学診断(DNAシーケンサー)などの新たなアプリケーションに対する実用的な量産技術として導入実績があります。これに加えて、基礎研究レベルでも、メタマテリアルやメタサーフェスなどのウェハ光学素子を実現する際に活用されています。

そのような中、半導体の製造技術を用いてウェハ上に大規模な光回路を構築する集積フォトニクス分野においても、NILが活躍できる可能性があります。本分野において最も解像度が必要とされる場面は、DFB(分布帰還型)レーザにおける回折格子の形成、光回路の入出力に使用するグレーティングカプラの形成、シリコンフォトニクス光回路における導波路の形成などであり、いずれも100 nm程度の解像度が保証されていれば十分といえます。そのため、他の露光技術に比べて、NILの大面積転写性や高スループット性が大いに活かせ、かつコスト観点からも優位性があると考えられます。このような背景のもと、当グループでは、集積フォトニクスにおける一分野として、近年発展が著しいシリコンフォトニクスプロセスにUV-NILを導入することを目指しています。

▲ 各種露光技術の性能とナノインプリントリソグラフィの立ち位置 (NILは解像度を担保しつつ高スループット)

■UV-NILを光集積プロセスに導入する
Tower Semiconductor, GF (GlobalFoundaries), AMF (Advanced Micro Fundry)などのシリコンフォトニクスを扱っている各種ファウンドリでは、大面積転写性や高スループット性を鑑みて、ArF液浸リソグラフィが使用される傾向にあります。これをUV-NILで代替する場合、マスクとして利用する光硬化性樹脂には、標準的にUV-NILで要求される性能に加えて、最低限、SF6-C4F8混合ガスによるエッチング耐性、O2アッシングによる除去の2つの要求を満たすことが必須となります。当グループでは、東京科学大学および東京応化工業の2者間で協働研究拠点を設立し、シリコンフォトニクスプロセスに適した光硬化性樹脂を開発しています。

また、インプリント工程は、EVG620 NTを用いたSmartNIL技術に基づいています。これは、透明なフレキシブルポリマーのワーキングスタンプを使用して、ウェハレベルでUV-NILを行う技術です。光硬化性樹脂の膜厚およびマスタースタンプのアスペクト比・配置などに影響される充填率を考慮することで、膜厚20 nm以下の残膜制御が可能となっています。NILによるパターン形成後は、光硬化性樹脂の除去にO2プラズマアッシングを用いる点を除いて、標準的なシリコンフォトニクスプロセスと同一となっています。

▲ UV-NILを用いた光集積プロセス

▲ EVG 620NTを用いたインプリント工程:各種条件の最適化
▲ 走査電子顕微鏡によるインプリント性能の確認