物質の性質を考え、新しい性質を有する材料を作り出すことは、人々の生活のあらゆる場面に寄与する極めて重要な研究であるといえます。メタマテリアルの研究とは、いわばその究極系であり、物質の “誘電率” と “透磁率” を自在にコントロールすることで、あらゆる性質を持った材料を生み出すことを目的としています。
メタマテリアルの正体は「金属で構成された微細構造の集合体」であり、構成要素となるナノ構造をうまくデザインすることで、所望の特性を有する光学材料を実現できます。メタマテリアルの研究は、物質固有の誘電率・透磁率の値を人工的に変化させることを目的としたものが多く、材料研究としての側面が強いといえます。そのようなメタマテリアルの次のステップとは、それらを実際に光デバイスに応用することで、メタマテリアルでしかできない機能を実現させることにあります。光分野は「導波光学」と「空間光学」という二つの大きな学問体系に分けられますが、それぞれに対してメタマテリアルを適用することで、新しいデバイスの実現を目指しています。
■ 導波光学におけるメタマテリアル
「導波光学」は、主に光通信デバイスで用いられる学問体系です。導波光学におけるメタマテリアルの可能性として最も単純かつ強力なのは、透磁率の変化に伴う高い屈折率変化に着目することです。これを利用することで、既存デバイスの高性能化とスケールダウンを図ることができます。また、メタマテリアルが有する透磁率の急峻な波長分散や非線形性を活用することで、光導波路内において新しい物理現象を発現させることも可能となります。
■ 空間光学におけるメタマテリアル
「空間光学」は、主にイメージングで用いられる学問体系です。メタマテリアルによる特殊な電磁波の制御は、既存技術の枠組みを超えた新しい技術を提供します。特に、光学迷彩(迂回・遮蔽など電磁波の空間的制御を行う技術)は最もホットなトピックの一つであり、それに向けたツールとして、メタマテリアルを内包した有機薄膜フィルムを開発しております。予めフィルム内に特定の誘電率と透磁率分布を持つようにメタマテリアルを内包させておくことで、‘フィルムを対象物に巻き付けるだけ’ で光学迷彩を実現することが可能となります。